ヴィクトリア朝のパブ
「ここのビールが、このうちの鵞鳥ほど上等なら、さだめしうまいだろうな」
「え? 鵞鳥で?」亭主は面くらっている。
「そうさ、たったいまもヘンリー・ベーカーさんと話したことだが、あの人はここの鵞鳥クラブの会員だったろう?」
『青いガーネット』新潮文庫 P.296
これはシャーロック・ホームズシリーズ『青いガーネット』の作中、パブ「アルファ」での一場面。今回は「ヴィクトリア朝のパブ」について。
「パブ」とは
「パブ(Pub)」とは、イギリスで発達した酒場のこと。イギリスの街にはあちこちにパブがあり、どんな小さな村にも必ず数件はあります。ちなみに、アメリカにおける同スタイルの酒場は「バー(Bar)」と呼ばれます。
パブの役割
パブは酒を楽しむ場としての役割はもちろん、他の社会的機能も担っていました。
- スポーツ団体のクラブハウス
- 討論会用の施設
- 園芸愛好会の会合場所
- 積立金の管理
社交場としてのパブ
ヴィクトリア朝のイギリスでは、産業革命により作業が機械化されたことで多くの労働者が余暇を手に入れました。やがて彼らは趣味を持つようになり、その中にはスポーツや園芸がありました。当時の労働者にとって、パブは同好の仲間と過ごす社交場だったのです。
ガチョウ・クラブ
客から集めた積立金を管理しているパブもありました。冒頭で紹介したパブ「アルファ」の「ガチョウ・クラブ」も、まさにこのひとつ。常連客が毎週少額の金を積み立てると、クリスマスにガチョウを一羽受け取れるのです。
共済組合としてのパブ
何軒かのパブが共済組合を運営している場合もありました。疾病給付金などの費用を積み立てた会員に、年に一度利益を分配するのです。
当時のパブについて思うこと
個人的に、これらパブの役割はヴィクトリア朝の社会情勢を反映していると思います。産業革命に伴う機械化により余暇を手に入れた労働者たちは、スポーツで汗を流し、園芸に癒され、パブで仲間と酒を酌み交わしました。また、当時は(効能や安全性が不確かであるものの、)薬局で様々な薬が販売され、病気になるとそれらを買うために金が必要です。さらに、学校教育に対する関心が高まり、労働者階級の子供たちにも教育を受ける機会がわずかに与えられました。積立金などの金銭の管理をパブで行なうようになったのも、教育の成果なのかもしれません。【M.S.】
本日のメニュー
今回の記事にぴったりなメニューをご紹介します。
「ジンジャーブレッドグース(gingerbread goose)」
クリスマスの定番お菓子「ジンジャーブレッドマン」のガチョウ版。生姜味の生地をガチョウの型で切り抜き、お腹にガーネット(レーズン)を飾りました。尾羽にチョコをつけるのをお忘れなく。(青いガーネットを飲み込んだガチョウは尾羽が黒いので。)